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本学教員の学術論文がアメリカ化学会発行「Journal of Physical Chemistry C」誌の内表紙に選出されました

更新日:2025.06.27

大学院工学研究院 基礎科学研究系の小田 勝准教授と愛媛大学との共同研究成果が、アメリカ化学会(ACS)の論文誌 「Journal of Physical Chemistry C」に掲載され、Supplementary Cover Artに選出されました。論文は2025年6月2日にオンラインで公開され、6月12日号でカバーアートとともに刊行されました。

本研究では、半導体ナノ結晶を内部に入れることにより、光と半導体の強結合状態であるポラリトンを室温下で形成できる新しい微小共振器(MC)の構造を開発し、その光学特性を明らかにしました。

通常のMCは、光の波長程度の距離で向かい合う2枚の鏡の間に、半導体薄膜を挟んだ構造をしています。この構造では、光と半導体との間に強い相互作用が生じることにより、ポラリトンが形成されます。ポラリトンを利用すると、理論的には発振開始までのエネルギー損失の無い、省エネルギー型レーザーの実現が可能であると考えられています。しかし、ポラリトンを室温での形成が可能な光との強い相互作用が得られる半導体薄膜は、ごく少数に限られます。一方、半導体ナノ結晶を集合させた膜を用いると、ナノ構造に特有の電子状態が形成され、通常の半導体でもポラリトンの形成が可能であるとの報告があります。しかし、こうしたナノ結晶の集合膜を、精密な間隔を持つ共振器中に作製することは、極めて困難な課題でした。

そこで本研究では、半導体ナノ結晶を高濃度に溶液中に分散させ、その溶液を2枚の高反射率鏡(誘電体多層膜鏡)で挟んだ、新しい共振器構造をもつMCを設計?開発しました。従来の手法では、ナノ結晶を集合させた乾燥膜や、ポリマーやガラスなどに埋め込んだ乾燥膜を共振器に挟んでいました。しかし、乾燥膜の作製過程で膜表面に凹凸が生じることや、ナノ結晶の表面が劣化する点が大きな課題となっていました。これに対し、本研究では、溶液膜を用いることで、これらの問題の抑制に成功しました。

また、光学測定により、新構造のMCにおいて、ポラリトンが室温で形成されることを実証するとともに、このMCの反射?発光特性を明らかにしました。光学測定の結果を解析したところ、光と半導体の相互作用力の指標となる真空ラビ分裂エネルギーが53.5 meVという巨大な値であることが分かりました。

さらに、溶液膜中のナノ結晶は、それぞれ方位が不均一であるという特徴を踏まえ、光とナノ結晶集合系の相互作用により形成されるポラリトンの特性を評価するため、量子力学に基づいた拡張型Tavis–Cummingsモデルを構築しました。この拡張型モデルは、半導体ナノ結晶を用いたMCでの研究において、今後広く利用できる枠組みとなっています。

本研究の成果は、次世代の光電子素子や省電力デバイス、さらには量子技術への応用が期待される、極めて足彩app哪个是正规的な基盤技術です。

◇掲載号「The Journal of Physical Chemistry C」 2025, 129, 23, pp. 10591–10600
◇掲載論文はこちら

【選出対象】

共著者 小田 勝 (大学院工学研究院 基礎科学研究系 准教授)
大和 千晃 (大学院工学府 博士前期課程 工学専攻 電気エネルギー工学コース 修了)
江頭 潤哉 (大学院工学府 博士前期課程 工学専攻 電気エネルギー工学コース 修了)
近藤 久雄 (愛媛大学大学院 理工学研究科 理工学専攻 物理科学 講師)
発表題目 「Room-Temperature Strong Coupling of Hexane-Dispersed Colloidal CdSe Nanoplatelets in a Microcavity Composed of Two Bragg Reflectors」



The Journal of Physical Chemistry C  誌の内表紙に掲載されたカバーアート

The Journal of Physical Chemistry C 誌の内表紙に掲載されたカバーアート


論文の概要図

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